水眠亭 インフォメーション
■2005/10

<水眠亭日記>8   山崎史朗

「箸」について

(2)
 さて日本の箸の歴史の中で本格的に箸食制度がすすめられてきたのは八世紀の初め奈良の都、平城京造営からです。そして従来の生活習慣であった手食から箸食へと生活革命が行なわれたのです。かくして箸は新しい文化のシンボルとして日本人の食卓に登場することになります。
 同じ箸食でも、中国、朝鮮、日本ではその食事作法に大きな違いがあります。それは中国、朝鮮は箸と匙がセットで使われていますが、日本は箸だけを使っています。日本の箸は食事用には、割り箸、塗り箸、木や竹製の箸、プラスチック箸など実に多彩で、このように同じ機能の道具でこんなにも種類を持つ国はほかにありません。この他、「取り箸」や調理人が使う「菜(さい)箸」や「真魚(まな)箸」もあります。
 日本人は食物を箸で食べやすいように調理し、食器に移し配膳にも工夫しています。これは箸と匙をセットにして使う中国や朝鮮と異なり、日本だけは純粋の箸食です。日本料理はどれも食卓に出されると後は箸ではさんで食べるだけという意味で箸中心の完成料理ともいえます。
 日本料理はその調理法が材料を「割さいて烹にる」ことが中心になってことから「割烹(かっぽう)」とも呼ばれています。「割」は刺身などを示し「烹」は煮物料理を意味します。日本料理のことを「割烹料理」という由縁です。このように箸は長年にわたって、調理、食器、配膳作法など日本人の生活すべてに関わり、独特な食文化を促してきました。

たとえば
○包丁料理
 日本料理では「切る」ことが中心であり、それは箸だけで食べやすくするためにあらかじめ魚や肉、野菜などの材料を切ることに発達したものです。
 刺身料理は口の中に入れられる大きさに「まな板」の上で包丁が切り刻み調理したもので、日本料理の代表料理です。昔は鱠(なます)と呼び刺身は造り身、お造りともいっています。平安時代には、一つの大皿に何種類も盛り合わせ、種類を区別するために、そのひれを刺したことから「刺身」という言葉ができたといわれています。この包丁料理もまな板に支えられて完成し、その調理人をとくに「板前さん」と呼ぶようになったのです。
 初めは平安時代には教養の一つとして来客の前で調理をしてみせる包丁式が発達し、続いて、室町時代になって包丁は専門の調理人のものとなり、今では包丁は板前さんの代名詞にもなっているのです。

○団子から、うどん、そば
 日本独特の料理である「うどんやそば」の麺類は従来の団子や「かきそば」というそば粉に熱湯を加え練って食べたものを切ることを導入し、箸で食べやすいように線条加工したものです。
また小麦粉を練って伸ばし包丁で切る「うどん」は室町時代末期に考案されたものといわれています。

○鍋料理
 すき焼き、しゃぶしゃぶ、寄せ鍋、ちり鍋、かき鍋など三十種以上もある鍋料理も箸の良さを生かして食べる日本料理の一つです。これは手では熱くて食べられないものを火を使って調理しつつ食べるもので、もう一つの魅力は一つの鍋をみんなでいっしょになって同時に食べられることです。そのうえ鍋料理ほど郷土食の濃い料理もほかに少なく寒い地方ほど特色のある鍋物が多く見られます。
 箸はこの鍋を通してお互いの心を通じあい人と人の結びつきを深め人の心を渡す役割をも果たしているのです。とくに日本の国技である相撲を支えている「ちゃんこ鍋」はその最たるものといえるでしょう。

○焼魚
日本では祝いの膳にはよく尾頭付の魚を添えます。魚の姿をよくするためには頭、胴、尾を串にさし、ひれに化粧塩をして焼き、焼魚を作ります。

この焼魚はナイフやフォークでは食べられないし、箸を使って食べるところにその良さがあるのです。つまり箸は「はさむ(挟む)つまむ(摘む)、支える、運ぶという「基本機能」と切る、さく(裂く)、ほぐす(解す)、はがす(剥がす)、すくう、くるむ(包む)、のせる(載せる)まぜる(混ぜる)、押える、分けるなどの「特殊機能」とがあります。このように箸は単一食器でありながら、多彩な機能を持つ「一物多機能」(万能食器)なのです。さらに箸には、食物の大きさ、形、硬さなどによっても箸の力の入れ方、挟み方、使い方も微妙な違いが要求され多才といわれている手の指先以上の多彩な働きをしています。元来、箸を使うということは、食事を楽しむということは、いうまでもなく、手の働きの基本形を育てるということもあるのかもしれません。

              (次号につづく)


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